中華蕎麦とみ田x松ト麦x飯田商店 対談

麺業界のトップランナーが「麺」をとことん語る
中華蕎麦とみ田x松ト麦x飯田商店 特別対談。

業界のトップランナーであるお三方を招いての特別対談を開催しました。
この貴重な機会で聴講したのは製麺業界の若手のホープたち。
大変お忙しいお三方の貴重で特別な「麺」を語る機会に
参加者から多くの質問が飛び交いました。
対談から一部抜粋してレポートします。

【対談者】
中華蕎麦とみ田 店主 富田治氏
松ト麦 店主 井上こん氏
らぁ麺 飯田商店 店主 飯田将太氏



対談動画(抜粋編)



商品開発やお店で出しているラーメンやうどんは、普段どんな思いで作っていらっしゃいますか?

富田さん

中華蕎麦とみ田 富田さん

ここ5年くらいは自分が何をしたいかということよりも、ラーメン業界としてどうしていかないといけないのかなということはものすごく意識していて。
最近もそうですけどラーメンってやっぱり売価のことをよく言われるので、千円がどうだとかっていう。 でもやっぱり当初自分たちの千円ってのはなんとなく抵抗があったところもあって。
でもやっぱりラーメンっていうのは仕込みの工程とか時間とか食材とかもいい食材を使えばどんどん原価がかかる食べ物ですから。 そういったものをいかにちゃんとその価値をつけて売っていくかっていうところはすごく意識していて。
なので本来自分がやりたいことっていうことと、業界として何をしていかなきゃいけないのかということははっきり分けてやるようにしていて。 なので今また千円がどうだとか騒いでますけど、一切もうそこには興味がなくて。
もうやっぱり二千円、三千円の壁を目指してやっているというか。今はそんな状況です。

飯田さん

飯田商店 飯田さん

まぁ生き様なので。当然皆さんそうだと思うんですけど魂込めてやるっていうのは大前提として、 今本当におさむちゃん(富田氏)が言ってることなんですけど、今自分がやることというのは僕らも昔と違って、 一個やるごとにやっぱり責任だとか影響力だとかっていうのは、もう「いえいえ自分もまだまだです」っていうふうに 言ってもらんないなって状態にはなっていることは自覚しています。
なので自分がこの一つやるということの重さというものをどう伝えるかとか。
伝えるというとちょっとおこがましいですけど、自然に伝わるかということを意識しながら。
例えば今日だったら小麦がメインかもしれませんけれども、どのように先輩方がラーメン業界に国産小麦を用いただとか、 この後どのように広がってくるかという伝わり方の血の濃さみたいな、というところは意識しています。

井上さん

松ト麦 井上さん

自分は、もうちょっと、言うのも恥ずかしい言い方になるんですけど、うどんの悪口を減らしたい、というところが製麺のスタートにもともとなってたので。
悪口という言い方が幼稚かもしれないですけど。
例えばグルメサイトとか見てもうどんがよく言われがちなのは、「これはさぬきうどんではない」とか「コシがある」「コシがない」だとかそういったことなんですけど。
結構ジャッジメントなコメントは多いので、そういうのを日本から減らしたいな、みたいなのがスタート・原動力になっているんです。

それでそれって何が問題なんだろうと考えたときに、うどんってかなり地域性の高い食べ物の一つだと思うので、例えばうどんって言う言葉は一緒でも伊勢で育った人にとっての伊勢うどんはまた違うし、讃岐もそうですし稲庭も違いますし。

みんなうどんって知ってるけれども食べてきたものが実際違うみたいな。地域性がすごく高い食べ物っていうのが特徴で。
そうなるとやっぱり自分の中の物差しができてしまう。それで育ったっていうので。 それでその物差しを持って他の地域のものを測ってしまうっていうのがちょっと一つ課題なのかなって。そう思って、自分の場合は原料をめちゃくちゃ大好きだから、原料からアプローチして、原料が違えば出来上がったものも違うしそれぞれの地域の粉もありますし。
「それぞれ違うんだよ」みたいなそういうふわっとした着地にはなるんですけど、違うんだよっていうのを伝えるために かなり単一品種で今は一般の方が食べても食べ比べしても「あーなんか違うんだね」「塩の量も水の量も一緒なんですよ。熟成時間も熟成温度も一緒なんですよ。
ただ粉が違うからこんなにうどんとして変わるんですよ。」って言うと、「わー面白い!」みたいな。そこが今自分のやりがいになってるいます。
それで楽しんでもらえると、その方が旅先でふらっと入ったうどん屋さんで自分の好みじゃないものを食べたとしても「あ、ここはこういううどんなのね」で済むんじゃないかと。
なんかここで否定的な気持ちが生まれないように、うどんってめちゃくちゃ引き出しあるからっていうのを伝えようとしています。

なので、もし自分が本当にうどん屋さん、ただのうどん屋さんをやるんであれば、おそらくブレンドとかしてくると思うんですけども、品種も粉も。ただ、もうちょっとコンセプトを持って単一にこだわっていて、自分でそれで苦しんだりもするんですけど、単一でやりにくいものも当然ご存知の通りあると思うので、やりづらいけれども、食べ比べをしてもらって、自分の中のうどんのものさしをもっと広く、もっとこう立体的に持ってもらうようなことを目的に製麺しています。

みなさんは、いろいろな産地まで足を運んでいますよね。産地を周って特性を見ながら製麺に活かしているのですか?

井上さん

そうですね。産地もだし、あとは、小麦には必ず親がいるじゃないですか。育種家やブリーダーの方々によって。
ありがたいことに、まだご健在というか、現役の方もたくさんいらっしゃるので、なるべく先生のところに行って直接親に話を聞くというか。その品種が誕生した背景とかを。
日本の農業って弱体化した時期があるので、そこから何で麦作振興でうまくいったのか。とか、そういったお話を聞いていますね。それが好きでやっていることかなと。

飯田さん

いろいろ見ます。井上さんぐらいマニアックにそこまで責め込んで親とかってのはなかったですけど。
当然畑を見るってことのレベルからでも、どれだけの大変な作業かとか、この面積でどのぐらい、一体はこのぐらいだって、それだけなのという。「こんなに広いのに収穫量はそれだけなの!?」ということから。
僕は食材見に行くのにも行って分からなくなるってことが原点というか。
もちろん分かりに行くんですけど、余計分からなくなるっていうことが大事なのかなと。

富田さん

やっぱりラーメンって小麦だけじゃなくてたくさん、スープの材料とかもあるわけなんで。小麦以外も見に行ったり。
僕はもち小麦までは使ったことなくて。ただ、あの食感は良いなと思いました。


お気に入りの粉とかってありますか??

飯田さん

お気に入りですか…まぁ挽き方の問題だね。
今、お気に入りというかハマってのはセモリナですね。セモリナ挽きの。特別にやってもらったりとかして。
セモリナ入ることによって本当は100パーセントのうちの今、醤油ラーメンで3%くらいなんですけど。まあ、もう全然違います。
3%で。2.5%ぐらいから全然違いますかね。

富田さん

今、お気に入り…去年ちょっとメインの小麦粉が入れ替わって。
もともと群馬のものを使ってたんですけど、今は九州のチクゴイズミ、めっちゃ中心の小麦を使わせていただいていて。
粘りと甘さがすごく特徴的で、それがうちのつけ麺のメインの小麦になっています。

飯田さん

難しいよね。よくできたと思う。あの太さでうどんにはならず、ラーメンの麺で、つけ麺の麺でって、相当難しいかと思っています。

井上さん

私は自分が食べるのが好きという意味では、ネバリゴシ、きぬあかり、チクゴイズミですね。
食べる上では、なめらか、粘膜感のあるうどんが好きなので、その3つがかなり好きです。
好きだけど、ネバリゴシについては「もうすぐいなくなるからね」というのを折を見て釘をさされているというか、ショックを受けないようにあらかじめ言われています。絶滅危惧種ですよね。

飯田さん

そうやって言って残っているのがいっぱいありますしね。

井上さん

今年の7月に青森の方で工場見学行かせてもらったんです。
「ネバリゴシ」自体はきぬあかりとかみたいに、愛知でうどん屋さんがたくさんあれば、官民一体となって「チームきぬあかり」を作って盛り上げれるんだけど、 「ネバリゴシ」を使っているうどん屋さんは本当に少ないので、それを実際に使ううどん屋さんがいなかったですよ。地のものを使うといううどん屋さんが。
そういうのもあって、ヘニョーンて生産も少なくなってしまったのもあるんですけど。
工場見学行くと、現地の方に「うちがうどん100%でやってる」と言うと、「どこがいいの?この小麦の?」って言われちゃって、私勝手に傷ついてたんです。
「まあ、ここがいいんですよ」って、私が逆に現地の方にプレゼンをしてきたんです。

飯田さん

割とね、現地の人が、分かってないというか見てもないっていうね。ただの小麦粉みたいな。
ネバリゴシは佐野さんが結構昔から20何年前ぐらいから使ってて。僕なんかラーメン本で見て、すごい名前だなぁと思ってました。


【聴講者より質問】商品を設計していく上でスープと麺の相性が非常に重要になると思いますが、 スープのほうから先に考えるんですか?それとも麺のほうから先に考えるんですか?



富田さん

最初の一年目ぐらいは分けて考えた時あるかもしれないですけど、あとはだいたい同時進行でこのぐらいの味…スープの味で持っていくと麺はこれくらいだろうなというふうに。

飯田さん

どんな思いをさせたいかで決めてるかなって感じ。お客さまに。だからスープが先なら小麦は何パーとか。そういうどっちでもいいというか。
つけめん、また考えがちょっと変わったりするけどね。でもどういう思いをさせたいかっていうところなのかな。

富田さん

結局今だって最後食べながら調整するしね。きりだし替えようとかね。ラーメンにした時じゃないと分かんないな結局。返しとかスープとか全部、結局それぞれ思いを持ってこだわって作っても合わせて合うかというのが別だから。それを最後やっぱり自分で食べた感覚でしかないから。

司会(冷凍めん協会専務理事)

なんか、こういうの食べたいとかでいいと思うんですよ。作りたいとか、全体像見ながらっていう気がする。
自分も、最後ラーメン作った時って、元々やっぱり山岸さんのラーメンを食べたいなっていうのがあって。あれをベースにこうしたいなっていう思いをずーっと膨らましてって最後作ってお二人に食べていただいたりと思うんですけど。
そういう中で一つの商品が生まれるみたいなところはあるなって思うんです。

飯田さん

うどんはまた違う感じですかね。

井上さん

そうですね。一応麺の方からですね。
その麺の良いところを味わう食べ方みたいな感じで。 最終的に「あ、わさびだけでいいな」みたいな時もあるんですけど。そういうのは他の麺以外の食べ物を食べているときにヒントをもらえることがたくさんありますね。

司会

井上さんこの前、薄口しょう油を結構勉強されてましたよね。

井上んさん

そうですね。また今、見直ししてしょう油をいろいろまたいじっているんですけど、元に戻ったりうろうろしています。

司会

けど、うろうろしたり、迷うのってみなさんそうですよね。一生って感じですよね。
僕はラーメン屋じゃないからあれですけど。

飯田さん

体調はバッチリみたいな日って、もうなんか40とか過ぎると、ずっとないじゃないですか。
そんな感じでずっともう。たまになんかいいなとかってありますけど、でもなんかそこは酔いしれたら終わりなので、一瞬だけな感じですね。

司会

多分、出汁とか、魚とかもそうですよね。結構変わりますよね。

富田さん

気に入るが気に入らないかじゃない。結局自分がその日の味が気に入るか気に入らないか。

飯田さん

そうね。1年前の自分だったらその味気に入ってたかもしれないけど。また違う、みたいな感じですかね。


【聴講者より質問】商品開発やメニュー開発で、どのように感性やセンスを磨いたり、情報収集をされていますか?

司会

3人の共通項って、食べるの好きなことですよね。

富田さん

食べるの好きですよ。

司会

私自身もいろんな料理人の方とお付き合いにしている中で思いますが、みんな共通するのは食べるの好きだよね。
そこからの感性とか、情報はそこから結構と磨いている。
多分この3人さんは色んなお店に行っているので、やっぱり「食べる」っていうのはこの仕事をしている中で絶対必要かなと。
そこからの感性はすごい求めてるし、実際行かれているお店に我々が行っても、美味しい、それは思ってます。

飯田さん

あと食べるのが好きだから、求めながら食べちゃうっていうか。
アンテナの張り方は強いのかなと思うんですね。すごい1個1個考えながら食べちゃったりとか。

司会

3人さんそういうポジションにいるから、周りのそういうお店ともずっと繋がっているから、ある意味レベル感の高いお店とのつながりってすごいですよ。
それをいつもお話聞いたりとかすると、インスタとかそういうのを見てすごいなと思う。

井上さん

食べるとめっちゃ幸せになれるので、その気持ちを自分のお客さんに伝えなければいけないので。この気持ちだと思って。まずは自分が幸せになってから、この気持ちだーって。

司会

商品開発の原点ってそういうところかもしれないよね。

飯田さん

わくわくだね。


【聴講者より質問】何をもって麺作り、味づくりのゴールを設けているのですか?ゴールはどんな風に設定しているのでしょうか?

飯田さん

僕はもう今ちょっと分からない時期に入ったというか、
変えてくことは変えてくし、守らなきゃいけないことは守るし。すごい分かりづらくなっているんですけど自分の中でルールがあって、例えば味を進歩させるのに美味しくするために、1回に1箇所しか変えないっていう。僕の中のルールが。わからなくなっちゃうから。
それが一番早いというか。1回効果が出て良い効果が出たらしばらく全く同じことを続けてみる。
結構進みは遅いんですけど確実。いつでも戻れるところを作っておくということ。
質問の答えは違うかもしれないですけど。ゴールというものは全然分かんないですよね。
満足しないことも多分どこかで分かってるんですけど。

富田さん

質問の答えを答えてあげたいんですけど、ちょっと難しい。 日々改良するってことですか?

質問者

改良なのか、新しい味なのかになりますね。
例えば新しいメニューを作ります。この味にしたいです、でも実際やっぱり日々模索していくとうまくいかないことも多いじゃないですか。
けど大体こういう項目が満たされていればOK、とゴールを終わりにするのか、どういうふうにゴールを設定し試作されているのかなぁと。

富田さん

気に入るか気に入らないかでしかない。

自分が美味しいなと思う、それができて別にまずいって言われても僕は気に入って出したと思うんだから、合わなかったんだろうな、で終わるんですけど。
これが不完全燃焼のものを出してまずいって言われたらやっぱそうだよね、ってなる時もあるし、 納得したものを出せるかどうかというか、自信持って出せるというか、不安なものは商品にならないというか無理しては出さないし。

質問者

それがいくら高くなっても、自分が納得したら1,500円とかでも?

富田さん

うん、全然。

飯田さん

その値段のてっぺんを決めないとか、原価のことも考えずやっちゃうから、 本当に美味しいものっていうところまでまず作ってってところになるんです。
そこの考え方ですね。

富田さん

この前やったやつも5500円とかだったんで。それも別に原価は何も気にしないよね。

司会

それが予約サイトでパンクしてるみたいな。大変なことだよ。 井上さんどうですか?

井上さん

私も気にいるか気に入らないかになるかな、、
召し上がった方が眉間に皺よっても、「なんでこれが美味しいの?」って言われても、良いところをちゃんと言えるぐらいになっていればそれでいいかな。

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