冷凍めんの気になるあんなことやこんなことに、“冷凍食品学”の権威、鈴木徹教授がお答えします。
品質について
冷凍めんは急速凍結で作っていると聞きましたが、その急速凍結とはなんですか?

急速凍結”とは、文字通りできるだけ短時間に凍結させることですが、急速凍結の冷凍めんとしての(業務的な)定義は、30分以内に、中心温度を-1℃~-5℃未満にすることです。
なぜ30分以内かというと、それ以上時間をかけ、じわじわと凍結した場合、めんの組織内にできる氷の粒が大きくなってしまうため、めんの組織へのダメージも大きくなってしまいます。
急速凍結すれば、その氷の粒が小さくなり、めんの組織へのダメージも少なくてすむのです。
つまり、元のままの、茹でたてのような食感や味わいを保持しているということです。

「急速凍結すると、めん組織へのダメージが少ない」ということはどういうことですか?

急速凍結は、めんを短時間で凍らせるため、めんの組織に含まれる水分が、小さな水の玉のまま、小さい氷の結晶になります。
一度茹でられて膨らんだタンパク質やデンプン分子は氷の粒で多少圧縮されますが、氷の粒が小さいため、結合までにはいたりません。
つまり、解凍すると、「元のままのみずみずしくもっちりとした食感が味わえる=めん組織へのダメージが少ない」というわけです。
めんの組織であるタンパク質グルテンやデンプン分子はとても構造が複雑で、茹で上げた際に毛糸がからみあった毛玉のような形状をしています。その中にほどよく水を抱え込みふっくらと膨らめば(澱粉のα化)、みずみずしくもっちりとした食感になるのです。
<時間をかけじわじわ麺を凍らせた場合は…>
めんの組織に含まれる水同士が集まりくっついて大きな氷の結晶になってしまい、そのまわりにあるグルテンタンパク質やデンプン分子がぎゅっと凝縮されて束になり、結合(水素結合)します。
解凍してもこの結合はほどけないので、氷だけが溶けて空洞ができる。つまり、「スポンジのようなフカフカの歯ごたえで、噛むと溶けた水がじゅわ~と滲み出るような水っぽい口当たり=めん組織へのダメージが大きく」なってしまいます。

冷凍めんの賞味期限はどうやって決めるのですか?

賞味期限は、その冷凍めんの製造者である各メーカーが確認をして決定しています。冷凍めんに限らずほとんどの冷凍食品は、一般的な冷凍庫に保存しておいしく食べられる期間を賞味期間としており、約1年間おいしく食べる事が出来ます。
なぜ約1年間なのか…それは冷凍倉庫の性能と関係があります。一般的な業務用冷凍倉庫や家庭用冷蔵庫の冷凍庫は、-18~-20数℃のものが一般的で、かつ、デフロスト(霜取り作業)が行われることによって、必ず温度変化が起こります(もっと低い温度帯の特殊な冷凍倉庫では、温度変化はあまりない)。それによって、長く冷凍倉庫に置いておくと、パッケージング中でめんの乾燥が進み、めんの表面やパッケージの内側に霜が付く場合があります。
保管温度をより低くして温度変化をできるだけ少なくすれば、そうはならないのですが、一般的な業務用冷凍倉庫や家庭用冷蔵庫の冷凍庫では仕方がないことなのです。そういうことを考慮して、合理的なデータに基づき、おいしく食べられる期間を1年としています。

冷凍食品の保存温度は食品衛生法では-15℃以下と決められていますが、商品には-18℃以下と表示されているのはなぜですか? 細菌の繁殖を抑えるためですか?

-15℃以下であれば、微生物は絶対に増えません。この-15℃以下という基準は、厚労省(食品衛生法)が“安全”という観点で定めているものです。その一方で国際的にも冷凍食品は、色や食感といった“品質”という観点から、-18℃以下で保存することが奨されています。つまり、おいしく食べられる=賞味という意味で、-18℃以下と表示されているのです。
さまざまな検証実験により、「-15℃以下であれば、微生物は絶対に増えない」ということは世界的にも認知されています。-15℃は実はまだ余裕のある数値で、微生物学的にはもう少し高い温度でも問題ありません。
微生物学的な期限、つまり消費期限という意味では、-15℃以下で保存されている限り、冷凍食品は永遠です。微生物が増える可能性がないのですから腐敗しません。

冷凍食品は安全検査などを行っているのですか?

検査はもちろん行っています。じつは冷凍食品ほど安全な食品はありません。なぜなら、冷凍食品が売り出されてから半世紀近く経つのですが、微生物による中毒は1件もありません。
冷凍食品は出荷をする前に、微生物の検査をすることが出来ます。その検査は48時間以上かかるので、一般的な生鮮食品やチルドの食品は行うことができませんが、冷凍食品は賞味期限が長いので、検査後出荷ができるという大きなメリットがあります。
その検査を経て100%安全だと確認できて初めて、商品として世の中に出されるのが冷凍食品なのです。適切な取り扱いをされれば安全です。

冷凍すると栄養が損なわれませんか?

冷凍食品は、よくこの点が勘違いされてしまうのですが、冷凍こそ栄養をキープできる最高の技術です。発酵のような科学的な変化をストップできますから。規定の温度できちんと保存した冷凍食品の栄養価は、ほぼ最初の状態と変わりません。

油を使っている冷凍めんの品質は変化しやすいですか?

油を使っていない冷凍めんよりは品質の変化はしやすいですが、冷凍することによって品質の変化を遅くすることができます。
油を使っていると、酸化という現象が起きるのですが、包装の仕方や温度管理の状態によって差はありますが、基本的には冷凍することによって、酸化の速度を遅くすることができます。

品質のよい冷凍めんを選ぶコツはありますか?

1.霜が付いていないものを選ぶこと。霜は、パッケージの内部で乾燥が進んでいる証拠です。
2.スーパーマーケットでのショーケースは、ショーケースの縁のあたりにロードライン(積荷限界線)が記載されています。そのロードラインよりも上に陳列してある商品は、-18℃以下)を保てていない可能性があるので、ロードラインよりも下の商品を選ぶことをおすすめします。
3.ショーケースに温度計がある場合は、その温度もしっかりチェックすることをおすすめします。
4.包装がしっかりしていて、もちろん破れていないもの。
5.RMKマークが付いているものは、「RMK認定制度」で認定された工場で生産されているので、より安全性が保証されています。

“RMK認定制度”とは何ですか?

日本冷凍めん協会が定めた、工場の品質保証と衛生管理のための独自基準です。厳格な審査のうえ、適合の判定がされている工場で生産された冷凍めんに限り、「RMK認定マーク」の表示を許可しています。詳しくはコチラをご覧ください。

冷凍めんに付いているRMKマークは何ですか?

RMK認定マークは、冷凍めんの安全・安心を保証するマークです。くわしくはコチラをご覧ください。

保存について
購入してから持ち帰るまでの注意点は何かありますか? 万が一溶けてしまった場合はどうすればいいですか?

1.冷凍めんは最後に買う(カゴに入れる)のがベストです。
2.持ち帰る際には、温かい食品と同じ袋に入れないこと。できれば保冷剤や氷、保冷袋を利用しましょう。
3.1袋だけ買うよりも、他の冷凍食品含めまとめ買いしたほうが、互いの冷気の作用で溶けにくくなります。
4.家に持ち帰ったら、すぐに冷凍庫に入れてください。冷凍めんはできるだけ温度変化をさせないことが、品質を保てる一番の条件なのですから。
<万が一溶けてしまった場合は…>
万が一時間が経って、パッケージの表面が汗をかいてしまった場合や溶け始めてしまった場合ですが、手で触ってみて、まだ、中の食品が柔らかいが凍っている状態であれば、安全性としては問題ないので、なるべく早く食べてください…ただし、味が劣化しているのは否めないでしょう。
そして、中のめんがすでに温かくなってしまっていたら、品質が変っている可能性がありますので、ご利用を控えてください。

家で保存する際の注意点は何ですか?

1.頻繁に冷凍庫を開閉し、出し入れをしないことが基本です。
2.すぐに食べないものは、冷凍庫の奥のほうに入れるのがいいでしょう。手前のほうに入れると、扉の開閉による温度変動をダイレクトに受けるので、品質が落ちてしまいます。
3.冷凍食品をいい状態で長持ちさせる裏ワザは、緩衝材や断熱材に包むこと。温度変化を防ぐ効果があります。

一度解凍したものを、再凍結した場合、品質はどのように変わりますか?

家庭用冷蔵庫の冷凍庫では急速凍結ができないので、めんの組織内の氷が大きくなり、グルテンタンパク質やデンプン分子が結合して、食感が悪くなります。
一度解凍されてしまったものを家庭の冷蔵庫の冷凍庫で再凍結すると、ゆっくり凍結されることになります。すると組織内の氷が大きくなり、グルテンタンパク質やデンプン分子が結合して、食感が悪くなります。
また、いったん解凍すると、その冷凍めんは生ものになるので、そのまましばらく置いておくと、腐敗する可能性があります。一度解凍したものはすぐに食べて、再凍結させないことがベストでしょう。

保存しておいた冷凍めんを開封すると、めんが白く(黄色っぽく)変色し、霜が付いていましたが、なぜこのようなことが起こるのですか?

めんが黄色っぽく変色するのは、もともと小麦粉は黄色っぽい(フラボノイドという色素が含まれる)ので、組織がぎゅっと凝縮されると黄色く見えるということです。また、霜は冷凍庫の温度変化が冷凍めんの表面の乾燥や組織に影響したことによるものです。この現象であれば食べても大丈夫ですが、決しておいしいものではありません。万が一ですが、外部からの何等かな付着も考えられますので、利用はお控えください。
<霜について>
冷凍食品のパッケージ内には空気が入っています。冷凍庫を開けた瞬間は、パッケージ内の空気の方が温度が高く、めんの方の温度が低い状態です。
しかし、しばらく冷凍庫を開けておくと、空気もめんも両方温まってしまい、空気の方にめんの表面の水分が移り飽和状態となります。
その後、冷凍庫を閉めると、空気のほうが先に冷え、めんの温度が高い状態になります。すると、パッケージ内の水蒸気は結露し、更に霜となりめんの外側とパッケージの内側に付着します。この一連の流れを何度も繰り返すと、霜が目で確認できるほどに、どんどん増えていくというわけです。
その結果、めんの表面は乾燥してしまうことになります。目で見えるほどの霜が付いためんを加熱調理すると、霜の水分が急激に失われ(昇華し)てしまうので、めんのデンプン分子がほぐれるどころかより強固になり、水分が奪われた部分は白っぽくなってしまいます。

家庭用冷蔵庫の冷凍庫に冷凍めんをいっぱい詰めても問題ないですか?

問題ないです。冷凍庫に冷凍めんをめいっぱい詰めると保冷効果が高まるので、他の冷凍食品も品質が保たれるのはもちろん、冷蔵庫の消費電力も抑えることができて一石二鳥です。
冷凍庫になにも入れるものがなくて、もしカラにしておくならば、袋詰めの氷でも入れておいたほうが、開け閉めしたときの温度変化が少なくなって、電気代の節約になります。
取りあえず、冷凍めんをストックしておくのがおすすめです。ただし、冷気の吹き出し、循環は妨げないよう注意してください。

調理について
調理する際に、気をつけるべき点は?

商品の裏面に表記してある手順や時間通りに調理することが、なにより大切です。冷凍めんは、一般的には素早く解凍することが大切、茹でるのではなく、解凍しほぐれたら食べごろです。
鍋の湯が沸騰していない状態でめんを入れてしまったり、茹で過ぎてしまったり…。そうすると、めんがのびきって柔らかくなるので、冷凍めんならではの、茹で上げのみずみずしくもっちりとした食感が台無しになるのです。冷凍めんの調理を、「温めたつゆやスープに入れて、ただ煮ればいい」という間違った感覚で、大して表示を見ずに調理される方が意外に多いようです。
また、パッケージに「電子レンジ調理OK」と表示されているものでも、裏面に記載されている手順通りに調理するのがベスト。表示に従わずに調理したり、電子レンジ調理可能の表記がないのに調理してしまったりすると、当然、味や食感が悪くなることがあります。

冷凍めんは凍ったまま調理してもいいのですか?
そのほうがおいしいのですか?

冷凍めんは、自然解凍ではなく凍ったまま加熱調理したほうがおいしいと言えます。
急速凍結した冷凍めんは、小さな氷のまわりにグルテンタンパク質やデンプン分子が寄せ集まった状態です。この寄せ集まった分子は、加熱されることでほどけ、適度に水分を抱えつつ元のふっくらとした膨潤状態に戻ります。この“加熱する”ことがポイントで、自然解凍(常温解凍)では、分子がほぐれず、膨潤しない(澱粉のβ化が進む)のです。したがって、冷凍めんは、凍ったままを加熱調理したほうがおいしいと言えます。

一度調理した冷凍めんを冷蔵庫で保存して、電子レンジで再加熱した場合、調理直後と食感は変わってしまいますか?

調理直後の食感とは変わってしまいます。正しい方法で調理された調理直後の冷凍めんは本来の食感(コシ等)がありますが、保存後に再加熱した場合は、めんがボソボソと柔らかくコシが無くなってしまいます。
調理した冷凍めんを冷蔵庫で保存した場合、めんの中心部と外側の水分が均一になり、茹で上げ直後のめん本来のコシが無くなってしまいます。さらに徐々に冷却されることで澱粉の老化(澱粉のβ化)も起こるので、召し上がる直前に調理をされることをおすすめします。

鈴木 徹 教授
東京海洋大学 食品生産科学科 農学博士
できたてのおいしさを瞬間的に閉じ込めてあるのが冷凍食品。
栄養面も安全性も保証されていて、しかも3ヶ月以上もそのおいしさを味わえるのだから、冷凍食品はとても価値の高い食材だと思います。
1979年 東京水産大学水産学部食品工学科 卒業
1981年 同大学水産学研究科食品工学専攻博士課程 修了
1986年 東京大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士課程 入学
その後、英国ケンブリッジ大学やタイ王国チュラロンコン大学などで研鑽を積み、
2004年 東京水産大学 海洋科学部の教授に。日本で数少ない“食品冷凍学”の専門家として、TVや雑誌などでも活躍。