偶然と必然が重なった味噌。弓削朋子シェフと木津醸造所による低塩分味噌づくりへの挑戦

2026.03.10
お知らせ

弓削シェフと木津醸造所との出会い

弓削シェフの味噌づくりは、ある味噌教室で出会った味噌のレシピから始まりました。

そのレシピの味に惚れ込み、多くの人から「買いたい」と言われるほどの美味しさでしたが、そのレシピには大きな課題がありました。
塩分濃度が9%と著しく低かったのです。

他の醸造所からは「塩分濃度が低すぎて腐敗のリスクがあるため、うちでは作れない」と断られてしまいましたが、その際に「木津さんならやってくれるかもしれない」と紹介されたのが木津醸造所でした。

木津醸造所は、その挑戦的なレシピの可能性を信じ、共同での味噌づくりが始まりました。

木津醸造所での味噌仕込み当日の風景

味噌づくりは、時間と手間をかけた材料の準備から始まります。

木津醸造所の味噌づくりは、人の手による細やかな管理を大切にした製法です。
「個人が味噌を造るのを、そのまま商売にしたようなものです」と語るほど、ひとつひとつの工程に人の手がかけられています。

その象徴のひとつが、伝統の「へぎおこし」です。
大床による糀づくりや機械製法ではなく、少量の糀米を“へぎ”に盛り、一枚一枚手をかけて育てていく昔ながらの方法です。

コシヒカリを使った糀づくりは、この「へぎおこし」によって丁寧に進められます。
仕込みの4日前から準備が始まり、3日前に米を蒸し上げ、適切な温度まで冷ました後、糀菌をまんべんなく付着させます。

その後3日間、糀室で細やかに管理され、仕込み当日の朝にようやく糀が出来上がります。
日本の発酵文化を支えてきた糀への深い敬意が、この工程から伝わってきます。

一方、大豆は仕込み前日に洗い、水に浸して吸水させます。

仕込み当日の作業は、午前3時から始まります。
大豆の水切りからスタートし、蒸し上げ、冷却、ミンチ状に粉砕するまで、休む間もなく作業が続きます。

取材当日、私たちが立ち会ったのは、計量・混合・桶詰めという最終工程でした。
しかし、その裏には、数日前から積み重ねられた職人の手仕事がありました。

こうして準備された糀、大豆、そして塩を配合比に従って正確に計量し、木津醸造所で自家培養された酵母菌を加えて混ぜ合わせます。
この酵母菌が、発酵を安定させ、豊かな風味を生み出す鍵となります。

すべての材料がしっかりと混ざり合うと、いよいよ桶に仕込む作業です。
大工に特注したという、丸太を一本削り出して作られた特別な道具を使い、力強く仕込まれていきます。

弓削シェフの味噌レシピのこだわりや特徴

弓削シェフの味噌の最大の特徴は、塩分濃度が9%という低さです。
一般的に、この塩分濃度では腐敗のリスクが高いとされていますが、弓削シェフの味噌は安定して熟成を重ねています。

その秘密は、糀の量の多さにあります。
一般的な味噌が10割糀でも贅沢と言われる中、弓削シェフのレシピでは16割もの糀をふんだんに使用しています。

この豊富な糀の働きによって、低い塩分濃度でも腐敗を防ぎ、豊かな風味を生み出しているのです。

弓削シェフ自身は、このレシピが「たまたま」だったと語っていました。

しかし、その背景には素材への深い理解と探究心がありました。
偶然と必然が重なり合って生まれた、まさに奇跡のレシピと言えるでしょう。

完成までには2年という長い時間をかけて熟成させます。

感動を呼ぶ味わいと、その未来

熟成期間を経て完成した味噌は、弓削シェフのお店で提供されています。

お味噌汁はもちろん、そのままきゅうりにつけて味わうなど、楽しみ方はさまざま。

お店のカウンターで少し味見をしたお客さんからは、思わず「うまっ!」と感動の声が上がるほどです。
その場で購入して帰るお客さんも少なくないそうです。

こうした味わいの背景には、職人たちの手仕事と時間の積み重ねがあります。

そして木津醸造所は、今回の取り組みについてこう語ります。
「冷凍めんと味噌づくりで少し離れている感じはありますが、同じ食品と言う観点からすると何かのヒント等が隠されているのかもしれませんね」

一見すると分野は異なっていても、「食」という共通の軸で見れば、通じ合うものがあるのかもしれません。

手間を惜しまないこと。
素材と真摯に向き合うこと。
そして時間を味方につけること。

今回の取材を通じて、分野を越えて学び合うことの可能性を改めて感じました。

偶然の出会いと挑戦から生まれたこの特別な味噌。
その歩みが、新たな食の可能性へとつながっていくことを期待しています。

協力いただいた皆様のご紹介

■ 十日町 会席 ゆげ

HP:https://www.tokamachi-yuge.com/

■ 木津醸造所

HP:https://kitsu-j.com/

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